神戸家庭裁判所姫路支部 昭和43年(家)768号 審判 1971年2月12日
申立人 沢野あき子(仮名)
相手方 森田千代子(仮名)
主文
被相続人沢野富二の遺産をつぎのとおり分割する。
一 別紙物件目録記載(一)土地、(二)建物は、申立人沢野あき子が取得するものとする。
二 株式会社○○○株式二、六二四株、○○○△△販売株式会社に対する出資金債権七、五〇〇円、○○○農業協同組合に対する出資金債権八、〇〇〇円、農地給付金(国債)六〇、〇〇〇円は相手方森田千代子が取得するものとする。
三 ○○○△△販売株式会社株式五〇〇株のうち、一六六株を申立人沢野あき子が、三三三株を相手方森田千代子がそれぞれ取得するものとし、一株を申立人沢野あき子と相手方森田千代子の共有とし、持分を申立人沢野あき子三分の二、相手方森田千代子三分の一と定める。
四 申立人沢野あき子は相手方森田千代子に対し、一、四五三万三、〇五九円およびこれに対する本審判確定の日の翌日から支払いずみまで年五分の割合による金員を本審判確定の日から七年以内に支払え。
五 申立人沢野あき子は相手方森田千代子に対し、株式会社○○○の株券二、六二四株(うち六四株は申立人沢野あき子名義)、○○○△△販売株式会社の株券三三四株、(但し、一株については持分三分の一のみ)、国債(農地給付金)を引渡せ。
六 本件審判手続費用中、鑑定人株式会社○○○○不動産鑑定所に支給した金三万二、〇〇〇円はこれを二分し、その一を申立人沢野あき子その一を相手方森田千代子の各負担とする。
理由
第一申立人の主張
申立人は被相続人沢野富二の遺産の適正な分割を求めて、つぎのとおり主張する。申立人は昭和二六年六月被相続人と結婚し、爾来同人死亡まで別紙目録(一)土地上にある(二)建物(以下(一)土地のごとき表現をする。)で夫婦として同居生活をしたものであるが、被相続人は結婚当初から老年と病弱のため働くことができず収入がないところから、申立人は同二八年三月頃から(二)建物で石けん等の雑貨の小売を始め、その収益と申立人の恩給とを、被相続人との生活費および前記不動産の公租公課、修理等の管理費用に当てたものである。被相続人は収入がなく、同人名義の財産のうち、昭和二六年に申立人の結婚して以後に取得した財産は申立人の収入により取得したものであるから、実質的には申立人の所有物であつて被相続人の遺産ではなく、分割の対象から除外すべきである。また、被相続人は申立人が生活費等を負担しなかつたならば生活に困窮し、被相続人が結婚前から所有していた前記不動産等の財産は生活費等の調達のために他へ売却されるか、或いは公租公課等の滞納により差押を受ける等のため、被相続人の手許に保持しえたか疑問である。申立人は生活費等の負担により右不動産の維持に大きな寄与をなしているのであるから、分割に当り申立人の右寄与分を考慮すべきである。すなわち、申立人が営業収益、恩給から支出した分は、不動産維持のための有益費として不動産の評価価格から控除することによつて清算し、残額を分割の対象とすべきである。
第二当裁判所の判断
一 被相続人、相続人、法定相続分
関係戸除籍の謄本および調査の結果によれば、被相続人亡沢野富二は昭和四〇年七月一五日兵庫県○○○市○○町○○△△△番地で死亡し、同人について相続が開始したこと、相続人は、妻である沢野あき子(申立人)および子である森田千代子(相手方)の二名であることが認められる。法定相続分は、申立人は妻として三分の一、相手方は直系卑属として三分の二である。
二 申立人、相手方と被相続人との生活関係
関係戸除籍謄本、証拠調の結果、調査および審問の各結果によれば、つぎの事実が認められる。
(一) 申立人は、昭和二六年三月に大正一三年以来従事していた小学校教員の職を退いて後、同二六年六月頃被相続人と結婚し(但し、婚姻届は同三三年五月一三日に提出された。)、爾来被相続人死亡まで、(一)土地上にある(二)建物で夫婦として生活をともにしたものであること、
(二) 被相続人は結婚当初有限会社○○屋を申立外某と共同経営していたところ、赤字経営に陥り、昭和二六年末頃には営業の停止を余儀なくされ、申立人夫婦は収入の道を失つたために、申立人は一年程、○○○市内の○○(○○○○販売店)で店員として稼働した時期もあつたが、同二八年三月頃から、前記(二)建物で○、○○○等○○○○○の小規模な小売を始め、現在に至つていること、右営業においては、商品の仕入、店における販売は申立人が主として担当し、被相続人は、近隣の○○○○販売店○○○○に一日一ないし二時間一ヵ月一、〇〇〇円の給料をえて雑役として稼働していたが、暇な折、或いは、申立人に支障がある折には、自宅で店番をして営業に助力していたこと、
(三) 被相続人は結婚した当時、(一)土地、(二)建物の外は格別財産としてなく、申立人夫婦の収入としては、前記営業による収益(昭和二八年から同四〇年八月まで合計二、六〇〇、〇〇〇円)および申立人の恩給(同二六年から同四〇年七月まで合計一、四八〇、三九四円)に限られ、申立人夫婦は右収入を生活費、不動産の維持管理費(固定資産税等公租公課費、種々の工事費用、修繕費、火災保険料等)、増資株式の払込金等の支払いにあて、右収入のなかから一部を銀行預金として貯蓄したこと、申立人夫婦が結婚後取得した財産はすべて世帯主である被相続人名義とし、申立人名義の財産はないこと、
(四) 相手方は被相続人と増山いとことの間に婚外子として出生し、幼時に被相続人の親族に当る森田まつに引き取られて養育され、昭和四年(年齢一三年頃)に、森田としと養子縁組して後は同人のもとで養育をうけ同二五年森田進一と婚姻し、現在に至つているものであるが、幼時に被相続人の膝下を離れたところから、被相続人と親戚付き合いはあつたものの、同二一年頃、被相続人居住の建物が地震で倒壊した直後被相続人が相手方宅に一時身を寄せた短期間を除いて、被相続人とは同居し、生活をともにしたことはないことが認められる。
三 遺産の範囲、価額
(一) 相続開始の時点において存在した被相続人所有名義の不動産、現金、預金、有価証券等の財産は、調査、審問の結果によれば、つぎのとおりであり、この点について当事者間に争いはない。
(イ) 別紙物件目録記載(一)土地および(二)建物
(ロ) 株式会社○○○(以下単に○○○という。)株式一、八〇〇株(乙第二号証参照)
(ハ) ○○○販売株式会社(以下単に○○○△△販売という。)株式五〇〇株
(ニ) ○○○△△販売株式会社に対する出資金七、五〇〇円
(ホ) ○○○農業協同組合(以下単に○○○農協という。)に対する出資金八、〇〇〇円
(ヘ) 現金一二、五〇〇円
(ト) 預金
普通預金 (○○銀行○○○支店NO一一五九一) 三八、六九五円
普通預金 (同銀行同支店) 一一、八九一円
定期預金 (同銀行同支店) 五六、九六五円
定期預金 (○○銀行○○○支店) 二五、二八一円
(チ) 農地給付金(国債)六〇、〇〇〇円
(二) 申立人は、前記被相続人名義の財産のうち、申立人が被相続人と結婚同居して以後に取得されたものはすべて実質的には申立人の所有物であるから被相続人の遺産の範囲から除外すべきであると主張する。
前記第二、一認定の事実によれば、申立人方における○○○○○の小売店の経営については申立人が主たる役割を果たしていたものであるが、被相続人は従たる立場にあつたとはいいながらも、時折は店で販売にあたり、或いは商店街に面し営業に適する自己所有の(二)建物を店舗として提供する等夫として申立人の営業の遂行に協力しているのであるから、営業収益は申立人と被相続人との協力により得られたものとみるべきであり、営業の形態、規模をも考慮すれば、右両名の営業収益に対する寄与は他に右寄与の割合を証する資料もないので同程度とみるのが相当である。申立人および被相続人夫婦の同居期間中の収入は申立人が受けた恩給(一四八万円余)と右営業による収益(約二六〇万円)であるが、上記のごとく営業収益に対する寄与を同程度とみるならば、申立人夫婦の収入のうち、少くとも三分の二は申立人の寄与によつて得られた部分とみるべきであり、右収入に対する申立人と被相続人の寄与分の割合は、それぞれほぼ三分の二と三分の一とみるのが相当である。そして、被相続人が結婚後同人名義で取得した財産はいずれも右収入により夫婦の協力により得られたものというべきであるから、実質的には、右財産は、申立人と被相続人との前記割合による共有とみるべきであり、申立人の持分部分は、遺産分割にあたり被相続人の遺産の範囲から除くのが申立人と相手方との間の実質的公平に合致するというべきである。
つぎに、申立人は、被相続人が結婚以前から所有していた財産については、財産維持に対する申立人の寄与を分割にあたり考慮すべきであると主張する。
ところで、夫婦は相互に同居協力扶助する義務を有し、その資産、収入等に応じて夫婦共同生活から生ずる費用を負担する義務を有する(民法七五二条、七六〇条を参照)から、一方が他方の生活に協力し、扶助をしたとしても、それが配偶者として通常の協力扶助の範囲内にとどまる限り、他方の死後、遺産分割にあたり、自己の負担した分につき不当利得として遺産から償還を求めるとか、自己の負担した額に応じた潜在的持分を他方の特有財産のうえに取得し、右部分を分割にあたり遺産の範囲から控除するとかの形式で、自己の他方の生活に対する寄与分の清算を求めることはできないと解せられる。むしろ、かかる通常の協力扶助の範囲内の寄与は、遺産相続にあたり、配偶者が他方の遺産の上に法定相続分に相当する持分を取得することによつて定型的に清算されることを法は予定して配偶者の相続権を定めているものというべきである。そこで本件についてみるに、前記認定のとおり、申立人と被相続人の収入中、申立人の寄与分の占める割合が被相続人の寄与分よりも大きいから、申立人の寄与分の一部が被相続人の日常の生活費(医療費、近隣との交際費、慶弔費等を含む。)に充てられており、したがつて被相続人の生活保持について申立人の寄与が認められないわけではないが、右程度の寄与は配偶者としての通常の協力扶助の範囲内にとどまるものとみるのが相当であるから、右寄与分について分割にあたり遺産から清算を求めることは許されないというべきである。したがつて、この点に関する申立人の主張は採用し難い。もつとも、遺産である(一)土地、(二)建物の維持管理に要した費用については本来財産の所有者において負担すべきものであるから、所有者ではない他方の配偶者は負担した金額が確定しうるかぎり、分割にあたり、遺産に対し不当利得として右金額の償還を求めうると解するが、右費用は遺産の価値の維持、増殖に直接役立つた費用であり、しかも、夫婦別財産制により、夫婦相互の財産を峻別する制度を採用する以上、遺産の維持に寄与しない他の相続人との均衡上も公平であるというべきである。本件についてみるに、記録添付の各書証(いずれも申立人本人尋問の結果により成立の真正を認める。)、申立人本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、(一)土地、(二)建物について、申立人および被相続人の収入から、火災保険料一九、〇三〇円(甲四号証の一ないし七)、固定資産税等の公租公課一三六、九〇〇円(甲五号証の一ないし五二)、アーケード建設割当分担金一八四、一二〇円(甲八号証)、水道工事費用九、四九〇円(甲九号証)、物置の改造費用四〇、九三七円(甲一三号証の一、二)、合計三九〇、四七七円が支出されていることが認められ、右金額のうち三分の二に当る二六〇、三一八円は、申立人の収入に対する寄与分から支出されたものとみるのが相当であり、右費用は前記土地建物の維持管理に要した費用であるから、申立人は遺産から右金額の償還を求めうるというべきである。
(三) そこで、前記(二)記載の考え方にしたがい、(一)記載の財産中、分割の対象となる財産の範囲について検討を加える。
記録添付の各書証、調査および審問の結果によれば、(一)記載の財産中、被相続人が申立人と結婚した時に所有していたものは、(一)土地および(二)建物、○○○△△販売の株式、同会社および○○○農協に対する各出資金ならびに○○○株式一、八〇〇株中四八〇株であり、また、農地給付金(国債)は、被相続人所有の農地が国により買収されたために交付されたものであることが認められるので、右財産はいずれも、被相続人の遺産の範囲に属するものというべきである。
(一)記載の財産中、上記以外の財産はいずれも、結婚後申立人と被相続人との協力によつて得られたものであり、前記(二)に記載したとおり、各財産について三分の一のみが遺産の範囲に属することとなるから、遺産の範囲は、○○○株式四四〇株(前記した被相続人の特有財産である四八〇株と合わせて九二〇株となる。)、現金12,500×1/3(円)および各銀行預金金額の三分の一の金額である。
もつとも、審問の結果によれば、申立人は右現金および各預金をいずれも、生活費および営業上の支出にあて、右財産は現存しないことが認められるから、右現金および各預金の合計金額一四五、三三二(円)の三分の一に当る四八、四四四(円)に相当する金額の申立人に対する不当利得請求権が右現金、預金に代り遺産分割の対象となるものと解する。
(四) 増資新株式、調査結果によれば、○○○株式については相続開始後審判時までに、昭和四一年六月および同四四年一二月の二回にわたり、それぞれ一対一および一対〇・六の割当比率で増資による新株発行がなされていることが認められるが(払込金はいずれも一株につき五〇円)、右新株とともに遺産分割の対象とすべきである。ところで、○○○株式中遺産の範囲に属するものは前記したとおり九二〇株であるから、右株式に対する新株のみが遺産として分割の対象となるが、右株式数は第一回目の増資により九二〇株増加して合計一八四〇株になり、第二回目の増資により一一〇四株増加し、結局、審判時においては、計算上は、合計二九四四株に達していることとなる。ところが、乙二、四号証および申立人本人尋問および審問の各結果によれば、申立人は第一回目の増資後昭和四一年七月に、四〇株を自己名義に変更し、(申立人が自己名義に変更した一八〇〇株中、一七六〇株は遺産の範囲に属さず、四〇株のみが遺産に属するものである)さらに同四三年に、二〇〇株を第三者に譲渡したために合計二四〇株が被相続人名義でなくなりそのうえ、右二四〇株については第二回目の増資による新株一四四株の割当を被相続人名義で受けえなかつたため、前記計算上の数額に比し三八四株不足し、申立人が保管する被相続人名義の株式数は、二五六〇株であることが認められる。もつとも、申立人名義に変更された前記四〇株およびこれに対する第二回目の増資による新株二四株合計六四株は、申立人名義ではあつても被相続人の遺産とみるべきであるから、分割の対象となる。結局、○○○株式については増資による新株の割当をうけえなかつた一二〇株を含めて三二〇株が、遺産から減少しており、右株式は現存しないので分割の対象とはならないが、右減少は申立人の違法な処分行為によるものであるから右株式に代つて申立人に対する損害賠償請求権が分割の対象となると解するのが、相続人間の衡平に計うというべきである。右株式の昭和四六年一月一九日(最終審問期日)における価額(○○証券取引所における最終値)は一株当り九三四円であるから、右損害額は、(200×934)+120×(934-50) = 292,880(円)となる。
(五) 株式の利益配当金○○○株式中遺産の範囲に属するものおよび○○○△△販売株式の相続開始後の利益配当金は遺産から生じた果実として分割の対象となると解せられる。調査結果によれば、金額は以下のとおりである。
○○○株式の利益配当金(決算期は、五、一一月の二回、配当率は昭和四三年五月期まで年二〇%、同年一一月以後年二五%、所得税一五%控除)括弧内は申立人による第三者への株式譲渡がなかつた場合に遺産の範囲となる株式数および配当金額
株式数
税引配当金(円)
昭和四〇年一一月期
九二〇
三、九一〇
〃 四一年 五月期
〃
〃
〃 〃 一一月期
一、八四〇
七、八二〇
〃 四二〃 五月期
〃
〃
〃 〃 一月期
〃
〃
〃 四三〃 五月期
〃
〃
〃 〃 一一月期
一、六四〇(一八四〇)
八、七一二・五(九、七七五)
〃 四四〃 五月期
〃(〃)
〃(〃)
〃 〃 一一月期
〃(〃)
〃(〃)
〃 四五〃 五月期
二、六二四(二、九四四)
一三、九四〇(一五、六四〇)
合計
七九、一七七.五(八四、〇六五)
申立人が受領した○○○株式の利益配当金中分割の対象となる金額は七九、一七七・五円であり(申立人に対する同金額の不当利得償還請求権に転化)この外に申立人が第三者へ株式を譲渡した結果失われた配当金(84,065-79,177.5)四、八八七・五円を申立人は遺産に対し賠償する義務があるから、結局、配当金については右金額の合計額八四、〇六五円の申立人に対する債権が分割の対象となる。
○○○△△販売の株式の利益配当金(決算期は年一回、配当率は第一八期まで年一五%、それ以後は年二〇%、所得税一五%控除)
一七期
(
昭四〇・一二・ 一
〃四一・一一・三〇
)
三、一八七・五
一八期
(
〃四一・一二・ 一
〃四二・一一・三〇
)
三、一八七・五
一九期
(
〃四二・一二・ 一
〃四三・一一・三〇
)
四、二五〇
二〇期
(
〃四三・一二・ 一
〃四四・一一・三〇
)
四、二五〇
合計
一四、八七五
申立人が受領した○○○△△販売の配当金一四、八七五円全部が分割の対象となる(申立人に対する同金額の不当利得償還請求権に転化)。
(六) 分割の対象となる遺産およびその審判時における価額は、以上述べたところを要約するとつぎのとおりである。
(イ) 別紙物件目録記載(一)土地および(二)建物価額は別紙目録該当欄記載のとおり
(ロ) ○○○株式増資による新株を含めて、二六二四株最終審問時である昭和四六年一月一九日における価額をもつて時価を第定するならば、右時点の価額(○○証券取引所における最終値)は一株につき九三四円であるから、合計二、四五〇、八一六円である。
(ハ) ○○○株式三二〇株が遺産から失われたことを理由とする申立人に対する二九二、八八〇円相当の損害賠償請求権
(ニ) ○○○△△販売の株式五〇〇株取引所上場価額店頭取引価額はなく、時価は明らかではない。
(ホ)○○○株式の利益配当金八四、〇六五円(但し、うち七九、一七七・五円については同金額の申立人に対する不当利得返還請求権、うち四、八八七・五円については申立人に対する同金額の損害賠償請求権に転化)
(ヘ) ○○○△△販売会社株式の利益配当金一四、八七五円(但し、申立人に対する同金額の不当利得返還請求権に転化)
(ト) ○○○△△販売会社に対する出資金七、五〇〇円
(チ) ○○○農協に対する出資金八、〇〇〇円
(リ) 前記三(一)(ヘ)現金、(ト)各銀行預金額の三分の一にあたる四八、四四四円に相当する金額の申立人に対する不当利得返還請求権
(ヌ) 農地給付金(国債)六〇、〇〇〇円
ところで、申立人は、第一および第二回目の増資時において、遺産の範囲に属する九二〇株(第一回)、一、六四〇株(第二回)に対する増資新株各九二〇株、九八四株の払込金(一株につき五〇円)合計九五、二〇〇円を支出しており、さらに、前記三(二)に述べたとおり、申立人は遺産から二六〇、三一八円の償還を求める権利があるから、申立人が遺産に返還すべき金額から右金額を控除すべきである。したがつて、申立人が遺産に返還する義務を有する金額は、四四〇、二六四円(前記(六)(ハ)、(ホ)、(ヘ)、(リ)の合計金額)から右九五、二〇〇円および二六〇、三一八円を控除した八四、七四六円となる。
(七) 別紙目録(一)土地、(二)建物の評価について
鑑定結果によれば、右不動産の昭和四二年四月一〇日時点における価額は明らかであるが、右時点から審判時まで三年八月余りの期間が経過しており、近年右不動産所在地である○○○市周辺地域の開発に伴う地価の上昇が著るしい事情その他の経済事情を考慮すれば、前記時点における価額を審判時における評価価額に修正するのが相当である。
鑑定および調査の結果によれば、六大都市を除く地域別市街地価格推移指数(商業地)は、昭和四二年四月……八二〇(一〇〇)、同四五年三月……一三四五(一六四)全国木造建築費推移指数は、同四二年四月……二一六、同四五年九月……三〇二・九であることが認められる。他に、土地建物の現在時点における価額を証する資料も存在しないので右指数により、前記鑑定価額を昭和四五年三月頃の価額に修正することとする。
(イ) 土地の評価
鑑定の結果によれば、昭和四二年四月における(一)土地の建付地価額は一三、八四四、〇〇〇円であるから、同四五年三月における建付地価額は
13,844,000×(164/100) = 22,704,160 ≒ 22,704,000(円)
となる。
(ロ) 建物の評価
鑑定結果によれば、昭和四二年四月における(二)建物の坪当り復成価格は五五、〇〇〇円であるから同四五年三月における坪当り復成価格は
55,000×(302.9/216) = 77,127 ≒ 77,000(円)
現価率は、経過年数二四年、経済的残存耐用年数は七年であるから
1-(24/(24+4)) = (1/7)
となり、同四五年三月における(二)建物の復成現価は
77,000×24,087(坪)×(1/7) = 273,570 ≒ 274,000(円)
となる
したがつて、建物とその敷地とを一体とした場合の価額は、
22,704,000+274,000 = 22,978,000(円)
となる。
右土地、建物の価額は、昭和四五年三月頃の時点における価額であるが、他に審判時における価額を算定する資料もないので、右価額をもつて審判時(現在時)における価額とする。
(八) 遺産の総価額
前記各財産の価額を総計するならば、遺産(但し、○○○△△販売の株式を除く。)の総価額は、二五、五八九、〇六二円となる。
四 特別受益
調査、審問の結果によれば申立人、相手方とも、被相続人から遺産又は、生前に生計の資本としての贈与を受けていることは認められない。
五 相続分の価額
被相続人の遺産(但し、○○○△△販売の株式を除く。)の価額の総額は、二五、五八九、〇六二円であるから、申立人の相続分の価額は、25,589,062×(1/3) ≒ 8,529,687(円)、相手方の相続分の価額は、25,589,062×(2/3) ≒ 17,059,375(円)となる。以下、右相続分の価額にしたがつて、被相続人の遺産(但し、○○○△△販売の株式を除く。)を分割することとする。なお、○○○△△販売の株式五〇〇株については、価額を明らかにしえないから、他の遺産と分離して分割することとする。
六 申立人および相手方の生活状況、遺産分割に対する希望
(一) 申立人は前記認定のとおり、昭和二六年頃から被相続人とともに(一)土地上の(二)建物に居住し、同二八年頃から○○○○○の小売販売を営んでいたものであるが、被相続人の死亡後も、単独で右建物に居住し、営業を継続し、右営業により得られる月額約三万円の収益と恩給により生計を維持し、現在に至つているものである。申立人は老齢であり、子等頼るものはなく、右建物を離れて他へ移転して前記営業に代る他の生計の手段を求めることは著しく困難な状態にあるところから、右建物に居住し営業を継続することを望み、前記土地建物の単独取得を強く希望する。申立人は、証拠に表われたところでは多額な資産を有するとは認められず、収入としては少額な営業収益と恩給を得ているにすぎず、申立人が右土地建物を単独取得した場合に、申立人が相手方に負担するべき相続分の価額と右不動産の価額の差額に相当する清算金は非常な高額に達するので、申立人が右清算金の負担にたえうる資力を有するとは到底認められないが、申立人は知人らの協力により右清算金の調達は可能であるとして、右土地建物の取得を希望する。そして、申立人が(二)建物の所有権および(一)土地上に借地権を取得する方法による分割を希望しない。
(二) 相手方は、先年、○○○○を退職し、○○○○関係の駐車場に勤務する夫森田進一および二子とともに肩書住所地所在の自己所有建物に居住している。
相手方は、不動産の換価による分割又は現物分割を希望する。
(三) 申立人と相手方とは、被相続人の生前、時折親戚として交際があつたが、本件遺産分割をめぐる紛争が生じたために、現在は往来が途絶えた状態にある。
七 当裁判所の判断
(一) 本件遺産分割の焦点は、(一)土地および右土地上にある(二)建物の分割にある。申立人は、二〇年来右土地建物に居住し営業を営み、右営業の収益をもつて生活の資としてきており、右不動産は永年申立人の生活基盤をなしてきたこと、申立人は右建物から他へ移転したとしても、年齢を考えれば、新たな生活の道を切り開くことは著しく困難であり、資産も乏しく、子等他に生活上頼るべきものもないので右土地建物を離れては生活に困難を来たす可能性があること、反面相手方は肩書住所地所在自己所有建物に居住し、従来、右土地建物に生活上密接な関連を有していなかつたことを考慮するならば、分割に当り、申立人の右土地建物を中心とする生活に支障を生じさせない配慮が必要である。相手方は現物分割を主張するが、右土地建物の営業用建物として効用、土地の形状、建物の構造からみて、右不動産を現物分割する方法を採ることは相当でない。又、換価分割の方法を採ることも、申立人の居住営業への影響を考えれば妥当な方法とはいい難い。結局、申立人および相手方に関する前記事情、申立人の希望その他諸般の事情を総合考慮するならば、申立人に(一)土地および(二)建物を単独で取得させ、申立人に相手方に対する債務を負担させる方法をとるのが相当である。申立人の右土地建物の使用を確保する分割方法としては申立人に(二)建物および(一)土地に対する借地権を取得させる方法も考慮する余地があるが、申立人の希望、申立人と相手方との間の関係から継続的土地使用関係の設定は望ましくないので、上記の分割方法を採ることとする。申立人に(一)土地、(二)建物を取得させた場合、右不動産の価額の総計は、二二、九七八、〇〇〇円であり、申立人の相続分の価額は、八、五二九、六八七円であるから、申立人は相手方に対し、相続分の価額を超える一四、四四八、三一三円を相手方に対し清算金として支払わなければならない。申立人が負担する右債務金額は申立人の資力に比し高額になるけれども、申立人の知人らにおいて申立人のために右金額の調達に協力を約しているので、右知人らの協力に期待することとする。
(二) 遺産中、(一)土地および(二)建物を除く財産(但し、○○○△△販売株式を除く。)即ち、
○○○株式 二、六二四株(うち、六四株は申立人名義)
○○○△△販売に対する出資金 七、五〇〇円
○○○農協に対する出資金 八、〇〇〇円
農地給付金(国債) 六〇、〇〇〇円
申立人が遺産に返還すべき金額 八四、七四六円
は、いずれも相手方に取得させることとする。
結局、申立人が相手方に負担する債務額は、
14,448,313円+84,746円 = 14,533,059円
となる。
(三) ○○○△△販売の株式五〇〇株は価額を明らかにしえないので、相続人間の公平を計るために、法定相続分にしたがい、分割することとし申立人に一六六株、相手方に三三三株をそれぞれ単独取得させ、残余の一株については、申立人と相手方との共有とし、その持分は、申立人三分の二、相手方三分の一と定める。
(四) 申立人が相手方に負担する債務については、その金額、申立人の資力その他の事情を考慮し、この審判確定の日から七年以内に支払うべきものとし、本審判確定の日の翌日から完済までの間、民法所定年五分の割合による利息を付加させることとする。
(五) ○○○、○○○△△販売の各株券、農地給付金国債は申立人において占有しているので、申立人をして相手方に対し、相手方取得分の引渡を命ずることとする。
よつて、家事審判法七条、非訟事件手続法二七条を適用して、審判手続費用中鑑定人株式会社○○○○不動産鑑定所に支給した分三二、〇〇〇円について負担を定め、主文のとおり審判する。
(家事審判官 宗方武)